26/05/2026
歴史に学ぶ経営146 『防衛的賃上げ!?』
昭和59年4月、就職して最初にもらった初任給は額面で13万円だった。手取りにするといくらだったのかは正確には覚えていない。家賃と水道光熱費が7万円強、新聞・書籍代で約1万円、食事は全て外食だったので、暮らしていけるわけがない。学生時代に稼いだバイト代で賄った。3年9カ月で退職したが、売れる家財道具等を全て売り払って、ちょうどプラスマイナスゼロで帰郷したことを思い出した。
あれから40年!? 初任給は平均で22.5~26.5万円に上がり、企業によっては30万、40万なんて金額も。隔世の感がある。昨日(2026年5月26日)の日本経済新聞第一面のトップ記事が「賃上げ、5%台維持」というもの。同記事内で専門家は、「人材流出を防ぐため、収益的な余裕がない中での『防衛的賃上げ』の要素が強い」とコメントしている。
「防衛的賃上げ」があるなら、「攻撃的賃上げ」もあるのか? 「攻撃的」なのかは分からないが、面白い事例がある。以前「カンブリア宮殿」で紹介された「木村石鹸工業」という会社だ。くせ毛や寝ぐせに悩む人達の口コミで広まった「12/JU-NI(じゅうに)」というシャンプーや「SOMALI(そまり)」という洗剤が大ヒット商品だという。全く聞いたことがない会社名・商品名であったが、その開発秘話には興味をそそるものが多々ある。
同社では、ボディソープやシャンプーから台所・風呂・洗濯機用洗剤に至るまで次々と新しい商品が生まれているが、それは会社の指示ではなく、現場の社員が自主的に行っている。その背景にあるのが「自己申告型給与制度」だ。これは「どれだけ成果を出すか」を提示し、「いくら給料が欲しいか」を申告する制度だ。給料は、会社から見れば社員に対する先行投資だ。社長の木村氏はこれを「覚悟の交換」という。会社と社員が未来に対して合意点を探り合い納得いくところを見つける。それは、ロジックではなく覚悟、お互いに覚悟を交わせるところを見つけ合えばその方が健全であり、同じ方向を見て一緒に歩めるという。
『孫子』に次の一節がある。
善く戦う者は人を致して人に致されず(虚実篇)
(戦上手は、自ら主導権を握り、相手に振り回されることはない)
社員は自ら課題設定を行いそれに没頭する自由を得られる。会社は評価することの煩雑さから開放され、賃上げに悩むこともない。会社も社員も未来に対して投資を行い、積極的にリスクを取る「覚悟」があるからこそ成立する制度だ。「防衛的賃上げ」が人材流出を防ぐための後追いならば、「攻撃的賃上げ」は未来の価値創造のための先行投資だと言えよう。
同業他社の賃上げ状況を横目で見て、鉛筆を舐めながら「防衛的賃上げ」に悩む経営者からすれば、「木村石鹸工業」は羨ましい会社だ。そして戦上手な社員を育てることが、経営の最優先課題であることに気づかされた放送であった。 以上
#歴史に学ぶ経営