10/06/2026
●市場シェアよりも顧客シェアを拡大する
[要旨]
公認会計士の金子智朗さんによれば、従来の顧客開拓型マーケティングは新たな市場や顧客を開拓していくことが目的ですから、市場シェアの拡大を目指していますが、それに対して顧客維持型マーケティングは、同一顧客における当社との取引額の割合を増やすことを目指しており、これは市場シェアの拡大ではなく顧客シェアの拡大を目指すということであり、市場が拡大しない分野にいては、顧客シェアの拡大を目指すことが望ましいということです。
[本文]
今回も、前回に引き続き公認会計士の金子智朗さんのご著書、「同じモノを売っているのに、儲かっている会社、儲かっていない会社」( https://x.gd/OmMzO )を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、金子さんによれば、かつては、新しい顧客を開拓するためのマーケティングが行われてきましたが、現在は市場が飽和しつつあることから、これまで取引のあった顧客と継続的に良好な関係を築き、同一顧客が何度も自社製品を購入してくれるようにすることが重要になる、すなわち、顧客開拓型マーケティングから顧客維持型マーケティングに移行していくことが望ましいということについて説明しました。
これに続いて、金子さんは、市場シェアよりも、顧客シェアを拡大することが大切ということについて述べておられます。「従来の顧客開拓型マーケティングは新たな市場や顧客を開拓していくことが目的ですから、市場シェアの拡大を目指しています。それに対して顧客維持型マーケティングは、同一顧客における当社との取引額の割合を増やすことを目指します。市場シェアではなく顧客シェアです。たとえば町の花屋さんを考えてみましょう。この花屋さんが売上を増やすにはどうしたらいいでしょうか。
一つの方法は市場シェアを伸ばすことによって売上を増やすことです。その場合は、この街における他の花屋さんと顧客の争奪戦を繰り広げることになります。そのために、たとえば母の日やお盆、お彼岸の時期にチラシなどを大量に配って特別セールなどをやるかもしれません。うまくいけば、客足が増え、売上も増えるでしょう。ただ、他のお店も同樣のことをすることは容易に考えられます。そうすれば、他店にもお客さんが流れますから、思ったほど客足は伸びないかもしれません。
その上、チラシなどの広告宣伝費は増加しますから、利益はむしろ減少する可能性もあります。もし他店が値下げでもしようものなら、価格競争に巻き込まれて、それこそ利益が減少します。また、売上が増えたとしても、絶えず他のお店と顧客の争奪戦をしていますから、売上の増加が一過性のもので終わる可能性も十分にあります。このような方法以外に、花屋さんが売上を増やす方法はもう一つあります。それは特定の顧客との取引量を増やすことです。
ある男性顧客が奥様の誕生日に花を贈ったとしましょう。花屋さんはその奥樣の誕生日を記録しておき、翌年からはその誕生日の1か月前にハガキを送るのです。そして、奥様の誕生日が近いこと、今までに贈った花の種類、今年のお薦めなどを知らせ、今年も花を贈る場合は電話一本で配達する旨を知らせます。このようにすれば、たった一度きりの取引で終わってしまう可能性のある顧客との取引を、継続的に反復させることができるようになります。
もし、その誕生日がお彼岸やクリスマスなどの他のイベントと近ければ、ハガキにはそれらのイベントにお薦めの花の広告と値段も載せておきます。そうすれば、毎年1回の取引量を、年間を通じて複数回にすることができます。さらに顧客との関係が深まれば、他の家族の誕生日や記念日を知ることもできるでしょう。そうなれば、さらに取引量は増加していきます。これが顧客シェアを伸ばすアプローチです。新たな顧客を追い求めるのではなく、既存顧客を維持し、取引量を増やしていくアプローチです」(71ページ)
金子さんのご説明からもわかる通り、顧客シェアは市場シェアの対義語です。かつて、シェアと言えば、市場シェアのことを指していました。しかし、経済環境が飽和状態になり、市場そのものが拡大しにくい時代になってきたことから、顧客シェアという考え方が注目されるようになってきました。それは、市場が拡大しない条件で、自社製品の販売額を増やそうとするには、既存の顧客への販売数を増やすしかないという考え方によるものでしょう。
これは裏を返せば、時代を問わず、市場が拡大している製品については、顧客シェアを狙うよりも、市場シェアを狙う方が得策ということでもあり、例えば、インバウンド需要による国内宿泊市場は拡大していることから、新しいホテルの建設計画は旺盛のようです。ちなみに、顧客シェアの計算式は、顧客シェア=特定の顧客の自社製品の支出額÷特定の顧客の特定の分野への支出額×100(%)とされています。
例えば、ある人が、1か月間で吉野家で5,000円、すき家で3,000円、松屋で2,000円の食事をしたときは、吉野家の顧客シェアは50%(=5,000円÷(5,000+3,000円+2,000円)×100%)ということになります。ただし、これは牛丼店という特定分野に限定した顧客シェアですので、その人の1か月間の外食の総額が2万円であれば、外食におけるその人の吉野家の顧客シェアは25%になりますし、その人の1か月間の食費が5万円であれば、食費におけるその人の吉野家の顧客シェアは10%ということになります。
話を戻すと、金子さんが挙げた花屋さんの例は、それほど複雑な仕組みではないと思います。すなわち、中小企業でも実践が可能な働きかけだと思います。ところが、一見すると、いわゆるどぶ板営業の方が労力が少ないと感じられることから、売上を増やそうとするとき、従来の方法を踏襲してしまう会社は少なくないと思います。ところが、前述したように、市場が拡大しない時代は、かつてのような方法は効果がないわけですから、顧客シェアを高める活動の方が、労力がかかるように見えて、比較的効率的な活動と言えると私は考えています。
2026/6/11 No.3466
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