31/07/2026
「うちもそろそろAIを業務に活用していかないと」
そう感じている経営者の方は確実に増えています。しかし実際には「で、結局何から始めればいいのか分からず、そのまま数ヶ月が過ぎてしまった」という声が驚くほど多いです。
先月号のニュースレターでもお伝えしたとおり、中小企業のAI導入率はまだ2割程度にとどまっています。ある民間調査では「何から始めればいいか分からない」ことが導入を阻む最大の理由(6割超)として挙げられており、コストや人材不足よりも上位にきています。
つまり多くの会社は「AIの活用をやりたくない」わけではありません。「最初の一歩」のところで立ち止まっているだけといえます。
では、その一歩をどう踏み出せばよいのか。今回はポイントを3つに絞ってお伝えしたいと思います。
1つ目は「個人のアカウント(有料・無料にかかわらず)任せにしない」ということです。
商工中金の調査によれば、社内でのAI利用について「会社として導入している」と回答した企業はわずか16.3%にとどまる一方「個人の判断に任せている」と回答した企業は64.9%にものぼります。
つまり多くの会社では、社員が各自のスマホやパソコンでAI(有料版・無料版にかかわらず)をそれぞれ使っているだけで、実は「会社としての取り組み」にはなっていないのです。これは意外と見過ごされがちな落とし穴といえます。
個人のアカウントに顧客名簿や取引先情報、社員の個人情報といった機密性の高い情報を入力してしまえば情報漏洩のリスクは避けられません。
会社として法人向けの有料プランを契約し、入力した情報が学習に使われない環境下(法人プランは一般的)で会社の契約アカウントで社員がAIを運用すること。そのうえで全社共通のルールのもとで使うこと。これがAI導入における「最低限の土台」だと私は考えています。
2つ目は「いきなり大きく始めない」ということです。
いきなり「全社のDX」を掲げる必要はありません。むしろ毎日繰り返している地味な定型作業を1つだけ選ぶ。これだけで十分です。
実際、中小企業が最初にAIを使い始める業務で最も多いのは、請求書の転記や受発注データの照合、日報作成といった「書類処理・データ入力」(4割弱)です。派手さはありませんが確実に時間がかかる作業ほど効果が見えやすいという特徴があります。
三重県の老舗じゃばらメーカーでは、年間約2万件にのぼる受注データの照合作業にAIを取り入れ、3人がかりだった作業を1人体制に移行できたそうです。
また、ある建設関連会社では、荷札作成業務の工数をAIの導入により9割削減しています。どちらも「AIプロジェクト」と呼べるような大がかりなものではなく、日々の地味な作業へのAI適用という事例です。
3つ目は「理解していない人だけで判断しない」ということです。
実務を特定の誰かに任せること自体は間違いではありません。問題となるのはAIについて「よくわからない」という理由だけで、その判断を現場任せにしてしまうことです。担当者が異動や退職をした途端、会社のAI活用がゼロに戻ってしまう。そんなケースは珍しくありません。
ここで理解しておくべきなのは、代表者だけではなく、役員や現場をまとめる幹部社員といった、日頃から会社の意思決定に関わる立場の人たち全員がAIを学ぶことが重要だということです。
せっかく現場が「使えそうだ」と感じても、それを判断する側に何の実感もなければ「よくわからないから、もう少し様子を見よう」の一言で話が止まってしまいます。逆に経営に近い立場の人達が自分の業務でAIに触れ「これは思ったより使えるな」「ここは人がやった方が早いな」という感覚を持っていれば次にどこへ広げるかの判断を下すことが可能です。
この感覚は、社員にただ指示するだけで身につくものではありません。実際に自分の手を動かしてみて初めて掴めるものです。
会社でのAI導入とは、何か特別な設備投資をすることではありません。
会社としての土台を整え(社員個人のアカウント任せにせず、会社が契約するアカウントで運用すること)意思決定に関わる立場の人たちがAIを使って学ぶこと、その上で目の前にある「地味だけど時間を取られている作業」をまずはAIに任せてみる。それが中小企業にとって最も現実的で確実なスタートラインとなるのではないでしょうか。