15/05/2013
「国産ワイン」と「日本ワイン」は何が違う? 大手メーカーの“二方向戦略”
日経トレンディネット 5月13日(月)8時29分配信
国産ワインの売り上げが好調だ。2013年3月に国税庁が発表したデータを見ると(下のグラフ)、2007年、08年ごろからワイン市場には回復の兆しが見え始めているのが明らかに見てとれる。景気の好転も追い風となり、このままいけば90年代後半のワインブームの絶頂期である1998年の売り上げを軽く超えるのは間違いない。
「国産ワイン=日本のブドウを使ったワイン」ではない!
ところで、「国産ワイン」と聞いて何を思い浮かべるだろうか。
世界各地の主要なワイン産出国では、ワインを定義する「ワイン法」がある。欧州の場合にはEUで定めたワイン法があり、「ワインは新鮮なブドウまたはブドウ果汁を醸造した酒」と定められている。一方、日本にはワイン法自体がない。つまり日本では「何がワインなのか」が法律で定められていないのだ。その代わり、一部のワイナリーが所属しているワイナリー協会という任意組織があり、そこが定める「国産ワインに関する自主基準」がある。
それによると、国産ワインは「原料が日本産か海外産かに関わらず、日本で製造・販売する全てのワイン」を指す。さらに使用した果実の全部又は一部がブドウであればよい。ちなみに瓶詰めすることも製造したと見なされるようだ。
言い換えれば、外国から持ち込んだ濃縮果汁を水で薄め、さらに砂糖も加えて発酵させても国産ワイン、原料全てがブドウでなくても国産ワイン、さらには海外から持ち込んだワインにこれらを混ぜても国産ワインになる。海外でワインを生産する主要国でワインとして認められていないものが「ワイン」としてまかり通り、海外産の原料を使っていても「国産」とされているのだ。
近くのスーパーに出かけてワイン売り場を眺めてみてほしい。ワインの陳列棚で日の丸マークの付いた国産ワインのコーナーに並んでいるワインの大半は、実は輸入濃縮果汁を使ったワインだ(一つひとつのプライスカードにもご丁寧に日の丸が付いていることも多い)。
なかでもひときわ目を引くのが、酸化防止剤無添加ワイン(一般的には無添加ワインと呼ばれることが多い)。昨今の消費者の自然志向の流れに乗り、この手のワインが売り上げを伸ばしている。
メルシャンは2013年3月、海外原料を使った果実酒の生産量を500万ケースから600万ケースにまで引き上げることを発表。同社は、酸化防止剤無添加ワインの売り上げでは6年連続ナンバーワン。ワイナリーがない神奈川県の果実酒製成量が山梨県を抑えて1位に躍り出たのも、この手の果実酒を造るメルシャンの工場が神奈川県にあるからだ。
大手の「酸化防止剤無添加ワイン」のラベルを見てみると
この酸化防止剤無添加ワインのボトルを見てみると、どれもネーミングやラベルが似通っている。名前自体に「酸化防止剤無添加」という言葉が使われており、さらに日本的イメージを喚起するためか、筆で書いたようなやや太めの字体で酸化防止剤無添加ワインと大きく記されている。おまけにどういうわけか、「おいしい」という言葉をネーミングに使っているメーカーが多い(明治の「おいしい牛乳」のヒットの影響か?)。
背面のラベルを見ると、輸入有機ぶどう果汁使用とか、輸入ブドウ果汁使用というように、海外産原料を使ったことは記されている。というのも、先の自主基準では、海外産原料を使用した場合には、輸入ブドウなのか、輸入ワインなのか、それとも乾燥ブドウなのか、使ったものの形状に応じてそれらを記すことが定められているからだ。
ただ、輸入ブドウ果汁(正確には加熱して濃縮した果汁)を薄めるのに使った「水」は原料として表示されていない。実は先のEUの規定では、ワインに水を使うことは禁じられている。またブドウの原産国も記されていない。これほど食のトレーサビリティーが問題に取り上げられるなか、原料や原産国くらいは記してほしいものだ。
なかには果実酒という表示はあるものの、原料については酸化防止剤が記されているだけのものもあった。自主基準の限界がここに見える。
明治学院大学でワイン法を研究する蛯原健介教授は「現在、国際的な視点から見てもワインや果実酒についての表示を再検討すべき時期に来ている」と語る。筆者も全く同意見だ。
大手が「日本ワイン」にも本気で参入
一方、ここ2、3年、「日本ワイン」という言葉が頻繁に見かけられるようになってきた。例えば東京・渋谷の東急東横店のワイン売り場。そこでは、「日本ワイン」というサインがワインの陳列棚の上に掲げられている。この言葉は国産ワインと対比する形で「日本のブドウから造ったワイン」という意味で使われている。
そもそも日本ワインブームのきっかけは、ブドウ栽培を重視した小規模ワイナリーの隆盛だった。しかしここ最近、大手が本気になって日本ワイン造りに乗り出している。2010年にサントリーワインインターナショナルが「日本ワイン(にほんワイン)は日本のブドウで造ったワインとする」と表明、追って12年にメルシャンが「日本ワイン(にっぽんワイン)は日本のブドウで造ったワイン」と発表した。
「そんなの当たり前じゃないか」と思うかもしれないが、海外産原料を使った果実酒と日本のブドウで造った日本ワインを区別することは長年タブーとされてきた。大手ワインメーカー2社が「日本ワイン」の定義を表明したことはワイン業界にとって非常に重要なことだったのだ。
ただ国税庁の2011年のデータによると、日本ワインは国産ワインのうちの2割を下回り、残りの8割強は大手メーカーによる海外産原料を使った果実酒ということになる。
こうした状況のなか、大手ワインメーカーは今後どんな販売戦略を展開していくのだろうか。
日本ワインの定義をいち早く表明して差異化を図ったサントリーワインインターナショナルでは、日本ワインのシリーズのひとつ「ジャパンプレミアム」が非常に好調だ。2012年の実績で前年比が176%の1.8万ケースに達した。
そして2013年は4.5億円を投資し、自社ワイナリー「登美の丘ワイナリー」(山梨県)と「塩尻ワイナリー」(長野県)の生産増強を決めた。日本ワインの品質向上と生産拡大を狙ったものだ。塩尻ワイナリーに至っては、なんと1936年の開設以来、77年ぶりの大規模な設備投資だという。どちらのワイナリーでも小さなタンクを増やし、たとえ少量でも、またたとえ同じ品種でも、収穫時期やブドウの状態が異なるそれぞれの区画ごとに、仕込めるようにするという。同社は1000円台、あるいはそれ以上でも良質な日本ワインを造れば勝算ありと見たのだろう。また4月に一斉に5アイテムの日本ワインをリリースしたが、2000円台から8000円台とさらに高級レンジを狙ったワインだった。かなり強気だ。
他の大手メーカーも日本ワインに注力している。
メルシャンは日本ワインも絶好調だ。同社は2010年、山梨県勝沼にあるワイナリーを10億円の投資をしてリニューアル、すでに日本ワインの生産体制を大幅に刷新している(その際、ワイナリー名も「シャトー・メルシャン」に変更)。日本のブドウで造った「シャトー・メルシャン」のシリーズは前年比155%で2.2万ケースの売り上げに達している。
またサッポロワインも2011年9月、勝沼ワイナリーを全面的にリニューアルして仕込みを開始。極少量で仕込めるタンクのみに限定するなど、上質な日本ワイン造りに特化した生産体制を造り上げた。新生「グランポレール勝沼ワイナリー」ではわずか4人の少数精鋭のワインメーカーたちがワイン造りに取り組んでいる。今月29日には、ワイナリー限定でしか販売していなかったワイン、「グランポレール 山梨勝沼甲州特別仕込み2011」を全国で数量限定発売する。
販路を持ち、低価格で良質なワインをある程度まとまった量で造れる大手ワインメーカーは、日本ワインの普及に大きな役割を果たしていくだろう。とはいえ、日本ワインを造るには、まずはブドウの確保が必要だ。長期的な視野を持ち、栽培農家との連携、ブドウ園の運営にも取り組んでほしい。
次回は、日本ワインブームの火付け役である小規模ワイナリーの新しい動きを取り上げたい。
(文/鹿取みゆき=フード&ワインジャーナリスト)